3/ホットシリコン量子ビット
シリコン量子ビット系を用いて、高温動作量子ビット(ホットシリコン量子ビット)の実現を目指します。ここで言う高温とは、通常固体量子ビットが動作する数十ミリケルビンと比べて高い、1ケルビン程度(-272°C程度)を指します。通常より高温で動作する量子ビットが実現すれば、冷却能力の兼ね合いから、許容される回路消費電力(発熱)が飛躍的に向上し、量子ビットの近傍に極低温制御回路を配置することが可能になると期待されます。これにより、大規模集積シリコン量子コンピュータの実現に貢献することを目指します。ホットシリコン量子ビットの実現に向けた課題として、温度上昇に伴う量子情報保持時間の低下が知られています。この常識を打ち破るべく、未開拓の物理の深耕と解明に基づき、量子情報保持時間が極大値をとるスイートスポットの探索に挑戦しています。この実現に向け、他の研究開発テーマと強く連携しながら、高度な制御技術の開発と精密な特性評価に取り組んでいます。
研究開発課題
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6. シリコン量子ビットの高温動作
シリコン量子ビットの動作温度は、原理的には超電導量子コンピュータより高くできる可能性があり、これは格段に大きな冷凍機の冷却能力を利用できることを意味し、熱問題を克服する点で非常に有利です。私たちはまず、量子ビットアレイ構造の一部を用いた「小規模な実験回路」を用いた実験を行い、5年目の目標(量子ビット演算)に向けた、量子ビット操作のフィデリティ向上に関する課題を抽出していきます。次にシリコン量子ビットの1K温度動作を評価・検証します。1Kでは、希釈冷凍機の最低温度部と比較して、冷却能力は1000倍となります。これにより、制御回路や読み出し回路の発熱等による影響を低減することができるのです。次に1.5K温度動作に挑戦し、大規模集積シリコン量子コンピュータの電力設計へフィードバックをしていきます。1.5Kの冷凍機には、高価なHe3ガスが不要であり、またHe3/He4を希釈する構造も不要であるため、安価に冷凍機を大型化ができます。また、国内冷凍機メーカーで製造可能になり、さらなる冷却能力の向上も期待できます。さらに、集積・高速操作・発熱の観点で有利となり得るシリコンホールスピン量子ビット研究開発を実施します。コヒーレンスやデバイスの安定動作の観点では現時点では電子スピン系が有利であり、比較しながら課題抽出を行います。最終的に、安定性・コヒーレンス・集積・高速性・発熱の観点で電子スピン系とホールスピン系のベンチマークを行います。
課題推進者
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小寺哲夫