1/量子コンピューティング
本研究開発テーマでは、シリコン電子スピン量子ビットを用いた量子コンピュータの開発、特にシリコン半導体の回路集積化技術を活かした大規模集積シリコン量子コンピュータの開発を行っています。
大規模集積システムでは、多数ある量子ビットの中から動作させたい量子ビットを選択して動作させる必要があります。本研究テーマでは3つの(課題)を設けました。量子コンピュータの心臓部となる「2次元量子ビットアレイ」と、多数の集積した量子ビットアレイを高精度に制御し、情報を高感度に読み出すために必要となる「量子ビット高精度制御・高感度読み出し回路極低温制御」チップを開発します。
さらに、他の研究開発テーマとも連携して、全体を統括して本システムをコンピュータとして動作させるための「システムアーキテクチャ」の開発を行っており、シリコン半導体技術の優れた集積性に加え、再現性・特性安定性・高温動作特性などを活かし、大規模システムの実現をめざしていきます。
研究開発課題
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1. 2次元量子ビットアレイ
量子ドットアレイと制御に必要となる直接 CMOS*1 周辺回路を混載したチップ(QCMOS)を設計・試作し、試作チップの動作確認を行っています。搭載する周辺 CMOS 回路の仕様を量子コンピュータの動作に必要となる極低温用途向けに詳細に設計し、最適化することで、QCMOS に混載した CMOS 周辺回路が極低温領域(4.2K)においても正常に動作し、量子ドットを選択制御するために必要となるセレクタ―回路として機能することを確認しています。その結果、大規模化に必須となる量子ドットの直接 CMOS 周辺回路による動作制御が実現し、これまで困難であった多数の量子ドットのばらつき特性の取得が可能となりました。実際に試作した QCMOS にて、128量子ドットのばらつき特性を取得し、特性ばらつき解析に必要となる基礎データの取得に成功しています。本課題では、詳細な解析を行い、量子ビットの高精度制御・高感度読み出し回路設計で必要となる回路動作マージン、制御シーケンスへのフィードバックを行っていく予定です。
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2. 量子ビット高精度制御・高感度読み出し回路
極低温下にて動作させる量子ビットを高精度かつ効率的に制御する回路方式を研究・開発しています。シリコン電子スピン型量子コンピュータを実現するためには、大規模集積可能なシリコン量子ビットアレイ構造と共に、その量子ビットアレイを効率的に制御できる制御システムの構築が必要です。我々は、この制御システムの一部を希釈冷凍機に搭載し、大規模量子ビットを高効率に制御する方式の確立をめざしています。希釈冷凍機という過酷環境下へシステム実装する際には、回路物量制約、配線数制約、消費電力の制約、耐ノイズ制約等の様々な課題に対処しつつ、高精度制御および高感度情報読出しできる技術の確立が急務となっています。本研究では、具体的に、①希釈冷凍機の4K温度領域(He液化温度領域)へ搭載する制御回路と、②mK領域の量子ビット近傍に設置される、CMOSプロセス技術およびQCMOSプロセス技術を活用した高精度読み出し回路技術の、各技術開発を神戸大学との共同開発で進めています。これらのLSIを極低温プローバ、並びに、希釈冷凍機にて評価を推進中であり、今後、開発した回路の性能評価を拡充しつつ、試作した量子ドットアレイと組合せ、量子ビット動作の実証を進めていきます。
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3. システムアーキテクチャ
他の研究開発項目に対して全体を統括して、本システムをコンピュータとして動作させるための開発を推進しています。量子コンピュータとして動作するために必要な構成要素を、希釈冷凍機内の異なる温度域、及び、常温部に分散配置し、それらを協調動作させることで、将来的に量子ビットの数が増えたときにも対応できるスケーラブルなアーキテクチャを目指します。このアーキテクチャに基づく装置をユーザが利用するためのソフトウェア環境として、量子オペレーティングシステムの開発も進めています。量子オペレーティングシステムは装置それ自体を運用するための機能(実行環境)と、量子コンピュータで動かす量子プログラムを開発するための機能(開発環境)の双方を備え、シリコン量子ビットアレイの構造を活用した量子プログラムの実行を可能とします。この量子オペレーティングシステムの開発は大森賢治PMによる「大規模・高コヒーレンスな動的原子アレー型・誤り耐性量子コンピュータ」と連携して推進しています。さらに、この構想を実証していくための希釈冷凍機を中心とした極低温環境の構築や、低温条件下での制御部の特性を測定するための測定環境の構築を進めています。今後、これらの成果に基づき、システム全体を統合した動作の実現をめざします。
課題推進者
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水野弘之